織田信長公2008/06/23



《信長公、小姓に教えられし事》

いずれの御時か、信長公、
「誰にても参れ」
 と仰せられしにより、近習の小姓一人来りて、信長公の仰せを待ちおりしとぞよ。

しかるに信長公、しばし間を置きて一言、
「もはやよし」
 と仰せけるのみでありしとな。

小姓下がりおり、とまた前のごとく、
「誰にても参れ」
 と再び召されければ、他の小姓参りしに、これもしばし間を置きて一言、
「いらず、出よ」
 と仰せありければ、小姓下がりおりしに、やや間を置いて又、
「誰ぞ参れ」
 と仰せありしに、また他の小姓参りしとぞよ。

しばらくありて、これも何事も仰せないまま、小姓まかり下がり折りしに、ふと気付きて、座の側にありし塵を取りて下がりければ、
「待ちそうらえ」
 と仰せありけり。

信長公仰せけるには、
「惣じて人は心と気をはたらかすをもって良しとするなり。武勇のこと、かかるもひくも、時の潮合い合戦の習いなり。その方が只今の退き様、しおらし(殊勝である)」
 と褒め給いしなりと。
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いかにも信長公らしき逸話ではござろう。
今時の若者にも聞かせたし、などと野暮なことは申すまい。

かくのごとき老人の繰り言を、思い出すまま綴ってみたく、思い立ったしだいでござる。まあ気楽にお付き合いあれ。

備前老人佐源太永忠